Feb 15, 2013

翻訳効率向上ツール (日本語<>多言語)(ATA 2012)


日本語への翻訳で「生産性向上」と聞けば、期待感が膨らむのは筆者だけではない。ヨーロッパ言語に比べ、ローマ字入力・カナ漢字変換が日本語の入力効率を大幅に落としている点は避けようもない。一方、洗練された日本語入力ソフトも近年現れてきたが、そうしたソフトを入手し、十分に時間を掛けて評価する機会は誰しも少ないのではないか。Windows とパッケージになっているMS-IMEで取りあえず日本語入力は間に合うし、新しいソフトの使い方を習っているほど暇でもないというのがおおかたの本音ではないかと思う。そうしたなか、丹羽恭子さんのツール紹介はおおいに参考になり、明日からでも試してみたい気持ちになった。


丹羽さんのプレゼンでは、まず、日本語入力補助ツールとして以下の3つを取り上げた。
l  ATOK JUST SYSTEMS) (有料ソフト)
l  GOOGLE 日本語入力 (無料ソフト)
l  Microsoft IME

丹羽さんのプレゼンで一番印象深かったのは、上記の入力ソフトを使った「長文一気変換の精度」を示してくれた点だ。以下の例文で一括変換の精度を比較した。

ATOKおよびGOOGLEの入力例】
従来の鋳造金属工程だけでなく、コンテックの量産型鋳造工程を利用して、量産目的のによる試作品も提供しています。 * 「方」のみ変換エラー 本来「型(かた)」となるべき。
MS IMEの入力例】
従来の鋳造金属こうていだけでなく、こんてっくの・・・ (以降、入力できず)

上の比較が示された際、ATOKGOOGLE入力の良さに会場からはため息が漏れ、筆者の近くにいたベテラン翻訳者も「私は今までナニしていたのだろう・・・」と便利な入力ソフトを使わなかったことを悔いていた。ちなみに、筆者も同じ文を使って入力テストを試みたが、ATOKの場合、「かた」を「かながた(金型)」として入力すると100%完璧な文が一括変換できた。まさに「スゴイ」のひと言である。

ATOKGOOGLEを比較した場合、一括変換の実力はほぼ互角。入力文字数はATOKが100文字に対してGOOGLEは無制限。ただし、ATOKにはさまざま校正機能があり、例えば、「防衛庁」と入力すると、自動で<<名称変更 「→防衛省」>> と示してくれたり、「いらっしゃられた」と入力すると<<二重敬語「→いらっしゃる」>>と訂正候補を示し、また、連想変換機能では、「かれん」(可憐)と入力し [Ctrl]+[Tab]キーを押すと、連想される変換候補(類義語)として「美人」「明眸」「器量好し」「見目好し」「粉黛」などが示される。機能面から判断するとATOKに軍配があがりそうだが、ATOKが有料なのに対して、GOOGLEが無料ソフトである点は代え難い強みだ。
ところで気になるトランスレーションメモリーとの相性だが、ATOK + SDL Trados Studioの組み合わせで問題なく使えるとの説明だった。(TradosAuto Suggest機能がATOKの予測変換とぶつかるので、設定操作が少し必要との情報もある)

このプレゼンではOCRソフトについても触れた。PDF形式で受け取ったファイルをOCRソフトでEditable形式に変換できれば、その後、TMや機械翻訳ソフトなどのツールを使って作業の高速化が図れる。丹羽さんの推薦は「瞬間PDF OCR」だった。ただし、日本語の識字率はまだ中程度だそうだ。

続いて、音声入力ソフトの説明もあった。話すような速さで日本語の文字入力が可能になったらというのは翻訳者にとってまさに夢の世界であり、当然のことながら、丹羽さんの話に期待感が膨らむ。お薦めは「AmiVoice」と「ドランゴン・スピーチ11日本語版」(販売代理店:アセンディア)。いずれも、以前のように音声の事前登録が必要なくなり、インストール後ただちに使用できる。またドラゴンスピーチ日本語版にはフルの英語版も一緒に付いてくる。こうしたソフトの音声認識による入力速度は、パソコン検定準1級のレベルの3倍程度になるそうだ。ちなみに、準1級の合格ラインは、10分間で800文字以上。その3倍の速さだと2400文字になる。わずか10分で原稿用紙6枚分の速さである。

ところで、音声入力にはまだ克服すべき問題点もあるようだ。2012年6月に広島で開催されたIJETのプレゼンで、数年前から音声入力ソフト(AmiVoice)を使用しているという翻訳者のコメントが丹羽さんから紹介されたが、入力後の修正はどうしても必要だとのこと。筆者の経験でも、日本語の場合、話し言葉と書き言葉の開きが大きく、特に翻訳の場合、重みのある表現が求められる(例:help→助ける→支援する)。音声入力で重みのある日本語表現ができるようになるまで、ある程度慣れが必要であることは言うまでもない。

一方、日英の場合、音声入力を10年以上使っており、時間当たり1000ワード以上も訳すというアメリカ人翻訳者の例も紹介された。一般的に日英で音声入力の場合、入力スピードが20 – 40%程度向上するようだ。またMS Word, Trados Studio, Memoなどと併用して使うことも可能である。

プレゼンのまとめとして、丹羽さんから今後おおいに注目すべきツールについて説明があった。
l  機械翻訳ソフト
l  日本語文字入力ツール(ATOK、GOOGLE)
l  音声認識入力ツール (ドランゴン・スピーチ11日本語版)
情報タップリのプレゼンで、今後、生産性向上ツールとじっくり向き合ってみたいと気持ちにさせてくれた。

丹羽恭子さんのプロフィール: 名古屋市出身。日本の大学を卒業後、アイオワ州立大学で日本語教授法を学ぶ。その後、ロサンゼルスのカレッジで2年間日本語を教える。1987年から約10年間、ロサンゼルスにある日系企業で総務・秘書として勤務。1997年に日系自動車メーカーの社内通訳となり、フルタイムの通訳・翻訳者としてスタートを切る。2005年バージニア州に移り、フリーランスの翻訳・通訳者として活動を開始。専門分野は、製造業、技術、エンジニアリング、法律、ビジネス。趣味は音楽(歌:ジャズ、クラシック)とガーデニング。

文責: 土屋裕敬(Hiroyuki Tsuchiya)

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