Jun 5, 2017

Session J-10: Readability Matters, Insist on Human Touch to Stay Competitive Presented by Naoko Uchida

Summarized by Rika Mitrik

ローカリゼーション分野でコンテンツの和訳を手掛ける内田順子さんが訳質の問題がどのような経緯を経て出てくるのか事例を挙げながら説明してくれました。誤訳ではないけれど、ターゲット言語である日本語では不自然な表現がいくつもの工程を経た後でも残ってしまうのはなぜなのでしょうか。

ローカリゼーションの現場では翻訳の質を数値データにして評価するためにLQALinguistic Quality Assurance: 言語品質保証)というスコアカードを使用しながら校正します。レビューアは翻訳を修正する際に、修正しているエラーをカテゴリーに分け、深刻度(Minor, Major, Critical)も指定します。するとエラーのカテゴリーと深刻度に応じてポイントが加算されます。スコアカードには、プロジェクトの内容やワードカウントに応じて許容値が設定されており、エラーポイントが許容値を超えた時点で「Pass」が「Fail」に変わる、という仕組みです。

エラーカテゴリーには、Mistranslation(誤訳)、Terminology(用語選択ミス)、Language(文法ミス)など修正の根拠が自明でわかりやすいエラーもあれば、文法的なミスはなく、原文の意味もすべて含まれているけれども日本語で一から起草するならこういう表現はしない、という微妙な不備を分類するエラーもあります。これがReadability Error、または Style ErrorPreferential Errorなどと呼ばれるエラーです。しかし、このようにエラーカテゴリーを設けて審査の対象にしていても、不自然な訳文は今も多く世に出回っています。

すべてWeb上に実際に掲載されていたというサンプルは、なるほど、読むに堪えない直訳調の日本語です。もしかして機械翻訳?と思いきや、機械だと、「てにをは」抜け、トーンの不一致、不明な人称代名詞など、文法の破綻が顕著になる傾向があるそうです。

Readability Errorに該当する訳が出回っているのにはいくつかの要因があり、その筆頭は翻訳者の作業環境です。翻訳者が原文を受け取る際に、テキストだけでは判断しきれない文脈情報が欠如していることが多いのです。例えば、並んでいる文章に脈絡がなく別々の文脈から抜き出されたものの寄せ集めだったり、特定の文章がボタンのラベルだとはわからなかったりするのです。しかし、短納期のため、疑問点に対して翻訳者が逐一確認を取る時間的な余裕のないまま作業せざるを得ないことがほとんどです。

ローカリゼーションの作業工程は、翻訳→校正→翻訳者による確定というのが定番ですが、実際のやりとりはかなり複雑です。校正の結果は前述のエラーレポートを伴って翻訳者に差し戻され、翻訳者は不服がある場合は反論(Rebuttal)を返します。反論に対してレビューアがフィードバックをするという工程を経て、最終的に確定した修正内容が翻訳に反映され、最終納品物となります。最終的なエラーレポートは翻訳物の「成績」として翻訳者とローカリゼーションベンダーに共有され、記録されます。

大がかりなプロジェクトになると、翻訳にも校正にも複数のベンダーが関与し、さらにサブベンダーに託される場合もあります。それぞれのベンダーの元で複数の個人翻訳者、レビューアがチームを組み、ワークフローを管理するシステムを介して共同作業をします。こうした関係者は物理的に分散し、作業の間は基本的に一人でコンピュータに向かって仕事をします。各作業が終わるまで次の工程担当者の手には成果物が渡らないので、時間的にも孤立した状態となります。

このような分散環境で整合性を保つために使用されるのがローカリゼーションでは欠かせない翻訳支援ツールです。翻訳者、レビューアともに共通の翻訳メモリを使うことで、表現や訳語の一貫性を維持するわけです。このため、既存訳に寄せることが善とされ、翻訳開始前のプロジェクトマネージャからの指示も作業中に生じた質問に対する回答も、「翻訳メモリ/用語集/スタイルガイドに従え」というのが大半で、既存訳から逸脱することはコンプライアンスエラーだとするエラーカテゴリも存在します。

翻訳でしか使われないような違和感のある表現でも、既存訳に一貫してこのスタイルが使われていたら、翻訳者だけの判断で削除したり別の表現に言い換えることはしづらいものです。「集合知」として翻訳メモリが重用される反面、「良い訳」の判断をする権威が不在であるという現状もあります。

ローカライズの仕事は、ほぼLanguage Service Providerを介しての受注となるため、翻訳者にとっては担当のプロジェクトマネージャに満足してもらうことが、対価の支払いと、今後の受注確保につながります。プロジェクトマネージャにいい仕事をしていると思ってもらうためには、「納期厳守」「フェイル率を上げない」「プロジェクトのワークフローを止めるような問題を起こさない」ことが鍵となります。必ずしも多言語を理解するわけでないプロジェクトマネージャはターゲット言語の成果物に目を通して評価するわけではなく、訳質はレビューアが出す評点で判断します。このため、レビューレポートがフェイルにならないように、無難な道を選ぶ圧力がかかるわけです。重用される翻訳メモリの既存訳に従っておけば指示通り、となり、過去訳はルール化されて文脈を度外視してあてはめられるという悪循環が起こりやすいのです。

レビューアにしてみれば、修正をどれくらいしているか、適正なエラーカテゴリを適用しているかが自分たちの作業成果であり、抜き打ちで第三者による監査も入るので、必要な修正は見逃さず、適正なエラーカテゴリを適用してきちんと正さなければなりません。エラーをつけないで修正をすることは、個人の好みに寄せた不要な手直しであって、定数評価の邪魔になるとみなされるため、レビューアは修正するからにはエラーを適用する責任を負っています。しかし、「こう言い替えた方が聞こえがいい」という修正は、誤訳や文法ミスなどとは違って根拠を明確に指摘しづらく、せっかく直しても校正後の反論(Rebuttal)の工程で論争になる場合があります。

こうして、文脈に踏み込んだ訳出、根拠を客観的に明示しづらい修正を必要とするReadability Errorは、既存訳に寄せて無難な道を選びたい翻訳者にとっても、正当化しやすく好みの問題と反論されない修正をしたいレビューアにとっても、非常に取り組みづらい領域になっています。リスクを回避したい、ということでお互い何も手を入れなければ、フェイル率は抑えられ、ワークフローの流れを止めることもないのでフラグが上がらず、プロジェクトは問題なくクローズします。

このような現場の事情に加え、成果物の内容に対して発言権を持つ立場のエンドクライアント(翻訳の発注者)と末端の翻訳者の間には何重もの隔たりがあり、接点がないことも要因のひとつです。発言権のある立場の人ほど接する範囲が広すぎて、個々の問題を細かく把握していられないものです。一方、個々の問題に接している立場にある現場の実務者は、自分の担当する範囲の文脈にしかアクセスできないので、全体に及ぶ判断を自発的には下しづらいし、権限もないのが普通です。翻訳物の品質が内容を見て判断される頃には、すでに翻訳者の手を遠くはなれているものです。問題があれば遡って追跡されることはあっても、品質がよかった場合には、どの翻訳者の何が良かったというところまで、具体的な評価が聞こえてくることはあまりありません。このような環境では最終的な翻訳物を自分の「作品」として捉える視点、最終品質に寄与できるという意識を持つ機会がありません。そういう意識を持つことに対するメリットが見えにくく、むしろリスクの方が身近にあるのです。

とはいえ、訳質の問題はいずれ表面化するものです。エンドクライアントが満足しなければ、ベンダーごと挿げ替えられるという事態にもなりかねません。特にデジタルマーケティングが主流となった昨今、訳質の問題はコンテンツにアクセスする訪問者数、表示回数、フォロワー数などの形態で早期に具体化し、収益に跳ね返ります。これからの競争力とは、前述したような訳質劣化を助長するさまざまな要因の制限下でも、自然で読みやすい訳文を紡ぎ出す能力だと言えるでしょう。

今後機械翻訳はますます精度を上げていくことが予測されます。翻訳者はそれに対抗できる付加価値、すなわち、「時間と費用をかける価値のある」品質を提供しつつ、共存していく必要があります。上記のような作業環境下においても、既存訳に疑問が生じた場合は、コメントを残して不備を指摘し、次工程での解決に寄与することが求められます。チームメンバーからの指摘にはオープンに対応し、最終的な訳質向上に寄与することも肝要です。このように、翻訳者としてのアカウンタビリティを持ち、特に指示されなくても、人間ならではの味を翻訳に出せるような姿勢を維持することがサバイバルの道ではないでしょうか。リスクを負っても踏み込んだ訳を提案したことが評価され、コメントや質問を残せるプラットフォームが整い、訳質向上への貢献が認められるようになっていくのでしょうか。その兆候はすでに見られます。

Readability」エラーカテゴリーは以前には存在しませんでしたが、新たに導入されたものです。翻訳者やレビューア、関係者の接点も設けられ、質問の受付や打ち合わせが行われやすくなってきています。またTranscreationという翻訳支援ツールのフレームワーク外でマーケットに合わせてコンテンツが書き換えられる翻訳分野も広がりを見せています。翻訳トライアルの評価には特にカテゴリのないコメント記入欄も設けられるようになってきました。

翻訳のReadabilityに高い意識を持つことには大局的なメリットがあります。翻訳者は自動化できないソフトスキルを身につけることによって、簡単に置き換えられない存在になり得ますし、翻訳が知的好奇心を満たす仕事であり続けることになるでしょう。これからも読みやすい翻訳を目指して翻訳者の皆さんが技術を磨いていかれることが期待されています。


望月先生のご出身地は?

By Rika Mitrik

父が暖かい海で育つエビの研究に携わる海洋学者だった関係で、3歳まではフィリピンで育ちました。その後は鹿児島へ移ったのですが、両親共に他県の出身だったせいか、鹿児島弁を話すこともありませんでしたし、中学からラ・サール学園の寮へ入ったせいで鹿児島への帰属意識があまりなく、人に聞かれると「東京出身」と答えています。父とは長い間離れて暮らしたのですが、その分、母とは仲が良かったでしょうか。3歳年上の兄も私が9歳の時に寮に入って以来、別々に暮らしているので、あまり家族の絆が深い方ではないかもしれませんね

アメリカにいらしたきっかけは?

もともと英語は好きだったんですが、国文専攻で東大在学中にフランス語を独習し、卒業後、ソルボンヌ大学に語学留学したんです。フランス語はまだ自由に操れるレベルではなかったせいもあって、この留学生活は辛いものでした。英語の通じる他国の留学生と長時間過ごしていたせいで、英語の方が上達したくらいです。学期の締めくくりにヨーロッパをバックパッカー中、父から「ぶらぶらしているくらいなら、修士の2年間はサポートしてやるからアメリカに留学してみろ」と言われて、父の知り合いが多いハワイ大学へ留学することにしました。当然ながら、アメリカでは英語が通じるので、言葉に困ることがないことに感動し、また、アメリカ生活が性にあっていたこともあり、気づけば長い滞在となってしまいました。

東大で国文学を学んだ後で、英語環境で日本文学の研究というのはどうでしたか?

日本では、「国文学」は他の国の文学と比較して、独特の居場所を与えられているように思います。アメリカでは「文学」という大きい括りがあって、その中にイギリス文学、フランス文学、アメリカ文学などの一つとして、「日本文学」があるので、まずアプローチが違うなと思いました。例えば、日本だと作家研究(太宰治、夏目漱石など作家を対象として分析する)をする人が多いのに対し、アメリカではテーマに沿って(例えば、差別、ジェンダー、宗教など)対象となる作品を分析するスタイルが主流でした。ハワイ大学の日本文学研究のレベルは高く、充実した大学院生活でした。武者小路実篤について研究し、修士論文を書きました。アメリカであまり知られていない武者小路を一般読者に紹介したいという野望があったのです。

日本語教師になられた経緯は?

もともと自分でも作家志望だったのですが、売れるようになるまでの副業を考えた際に、食べていくためだけに性に合わない仕事はしたくないと思いました。その点、大好きな日本語を外国人に教えるという仕事ならストレスなくできるかと思い、ハワイ大学で日本語クラスのTeaching Assistantのポジションに就きました。テキサス大学で博士課程に進んだ時には日本語教授法の方に研究対象が傾いていたかもしれません。日本語教師になる人は言語学出身者が多いのですが、現在の上司は多種多様な経歴を持つ人を雇う傾向があり、私の文学というバックグラウンドも買っていただいてミシガン大学で働くことになりました。ちょうど日本語プログラムで翻訳コースの開講が検討されている時期で、翻訳を教える能力のある講師が求められていたのも幸いしたのでしょう。

教師のお仕事をされている望月先生がATAカンファレンスに来られるようになったのは?

上司と鈴木いづみさんが知り合いだったことがきっかけで、まずはミシガン地区のMiTiN (Michigan Translators/Interpreters Network)の学習会に参加しました。古巣のテキサスであったATAコンフェレンスに2013年に参加してみたところ、自分の教える翻訳コースにも活かせることを多く学ぶことができました。プロの翻訳者・通訳の方と数多く知り合うこともできて楽しかったので、重ねて参加するようになりました。いづみさんに勧められたこともあり、2015年にはアシスタントアドミニストレータに就任しました。カンファレンスに参加し始めた年からJLDのプランニングコミッティーに入ったこともあって、プレゼンも2回させていただきました。これまでは比喩や崩し文字といった固めのトピックだったので、これからは若者言葉やスラング、ポップカルチャーなどを検討しています。

今後はどのようなことに挑戦してみたいですか?

小説は今でも書き続けているんですが、日常に追われて毎日は取り組めていません。以前、ある人に「本当にやりたいことなら毎日1文字でも書くべき」と言われたことがあるので、その言葉を噛み締めて、書くことをルーチン化していきたいですね。その結果として、世の中に残せる作品が書けたら嬉しいかなと思います。


また、ATAカンファレンスで学んだことをどんどん自分の翻訳コースに取り入れて、未来の翻訳者・通訳者を一人でも増やしたいです。今、日本語学習者のための「翻訳を通じて学ぶ日本語」という教科書を企画・執筆中なので、頑張って何とか出版まで漕ぎ着けたいです。

Feb 14, 2017

IJET-28 Columbus, April 8 - 9, Early Bird ends today Feb. 14

IJET-28 in Columbus, Ohio, USA (April 8-9, 2017) 

Did you know? 

This year’s International Japanese-English Translation Conference (IJET) 
has been approved for seven (7) ATA continuing education points. IJET-28 Columbus will feature over 30 sessions on translation/interpreting, a Saturday evening banquet, Friday afternoon SIG meetings, and Friday evening Zenyasai

Be sure to register by the February 14 early-bird deadline today to save on admission. 

You can register and find out more here:

Regards,

on behalf of the IJET-28 Organizing Committee

Jan 31, 2017

Words and 言葉 by Jim Davis


“Two Roads Diverged ...”:Making Good Choices in Japanese-into-English Translation(Part 4)

This is part four of a paper based on the standing-room-only presentation Jim gave at the 2015 ATA Conference in Miami entitled "Two Roads Diverged ...": Making Good Choices in Japanese-into-English Translation. 

You can find all blog posts in the Words and 言葉 series here.

Jan 19, 2017

Proposals for ATA58


The American Translators Association is now accepting presentation proposals for ATA's 58th Annual Conference in Washington, DC (October 25-28, 2017). Proposals must be received by March 3, 2017.

Is there a session you would like to present at ATA58? Is there a workshop or issue you think would be of interest to members? The JLD Planning Committee is meeting to discuss the slate. Send your ideas to divisionJLD@atanet.org

You can see the Proposal for Conference Presentation on the ATA website.