Nov 27, 2014

ATA 2014: English>Japanese Translation of Figures of Speech

講演者: 望月良浩
報告者: ミトリック理香(Rika Mitrik)

ミシガン大学で日本語と翻訳実習コースを教えていらっしゃる望月良浩先生の「比喩の翻訳」についてのセッションに参加させていただいた。これは、前回のATAカンファレンスで日英翻訳のテクニックを講義してくださり、このブログにも寄稿してくださったウィスコンシン大学のジム・ディビス教授のセッションに触発されたものだという。ディビス教授のセッションでは、学生の珍訳迷訳(?)をなるほどと納得できる名訳に変身させ、含みの多い日本語表現を「字面を直訳するのではなく、言わんとする意図を訳すべし」と締めくくられていたのを覚えている。今回は英日の例文なので和訳翻訳者にはとっつきやすかったと思う。


「比喩」とは、英語でいうなら “Figure of Speech”、すなわち言葉を文字どおりの意味以外に用いることで、英語でも日本語でも頻出しては翻訳者を悩ませる。比喩は各言語の持つ歴史的、文化的、慣習的背景を反映しているものなので、原語(source language) が背負っている世界に精通していないと、それとは気付かなかったり、常套句 (conventional metaphor) としてあまりに浸透しすぎていて比喩的な用法であることさえ認識されない表現(本来温度とは関係ない色を「暖色・寒色」と呼ぶなど)もある。

直喩 (simile/シミリ) と隠喩 (metaphor/メタファー) の違いくらいは国語の授業でも習ったが、さらに、「甲子園」といえば「全国高校野球選手権」、“White House”といえば「大統領官邸」を意味するなど、置き換えられて使われるのが換喩 (metonymy/メトニミー) であり、「花見」の花はあくまで「桜」に限定され、“Man shall not live by bread alone”「人はパンのみに生くるにあらず」)というときのbread(パン)は、より広義の「食べ物全体」、ひいては「物質的充足」を指す提喩 (synecdoche/シネクドキ) だというのは、さすがは言語学者の視点からの分析で興味深かった。他にも「金がものをいう」というのは、生物でないものが人の行動をするかのように見立てた「擬人法」という比喩の一種だ。

カリフォルニア大学バークレー校の長谷川教授は著書 The Routledge Course in Japanese Translation でメタファーの翻訳に7つのアプローチを提唱しておられるが、望月先生はその中の3つ、訳語 (target language) でも同じ比喩で意味とイメージが伝えられるか試してみる、同じ意味とイメージを別な比喩で表現できるか考える、意味内容を意訳する、という手法に焦点をあて、様々な比喩の入った例文を幾通りにも和訳し、どの手法によるものかを解説してくださった。
私も望月先生同様、少しでも日本語で似た表現を見つけられれば、翻訳のパズルがはまったような気分になる。“Hanging on by a single thread” に対する「危機一髪」、“An army travels on its stomach” に対する「腹が減っては戦はできぬ」などが好例だろうか。

しかし、諺にも多面的な意味があるので、状況によって訳し分け、収まりは悪くても意訳するのが無難なこともある。先日も日本の学校現場でエピペンの使用が進まないのは「触らぬ神に祟りなし」的な国民性だというアレルギー専門医の言葉に出会ったが、英語表現でいう“Let sleeping dogs lie.”とか “Wake not a sleeping lion.”と訳したのでは「祟り」の意味が十分表現しきれない気がして、私は“People would rather not be responsible for taking a risk”と訳した。


ディビス教授の日英セッションでは「こんな意訳は英語ネイティブでなければ到底思いつけない」と思うことも多かったのだが、英日だと少しハードルが下がって、普段の仕事で手を焼く比喩表現の翻訳を体系的に見ていくことができた。来年もぜひ何らかのセッションをしていただきたいので、プランニングコミティーのメンバーが望月先生を口説いてくれることに期待している。

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