Nov 26, 2014

ATA 2014: Grammatical Digging to Improve Japanese>English Patent Translation

発表者: James Judge
報告者: 前田 紘明

 JLD最初のセッションの議題は、日英の特許翻訳において日本人翻訳者が陥りやすい文法上の落とし穴について。大阪から招いた発表者のJames Judgeさんは、日本での日常生活でよく見かける日本語の曖昧さや不思議な英文を紹介しながら、複雑な特許明細書を読み解き英訳する際の文法上の問題点についてユーモアを交えながら話してくれました。特許翻訳に携わっている翻訳者だけではなく他の分野の翻訳者も多数参加し、特許翻訳独特の英文表現ついて盛んな議論が持ち上がり、予定の時間があっという間に過ぎてしまう充実したセッションでした。


 特許翻訳を専門に行っている筆者は、翻訳会社や顧客から出される翻訳上の要望について考えさせられることが少なくありませんでした。例えば、明細書が、権利範囲が制限されてしまうmeans plus function形式で書かれていると米国特許庁の審査官に判断されることを避けるために、特定のスタイルでの翻訳を要求されることは少なくありません。しかし、それが自然な英語表現なのか、審査においてどれほどの効力を発揮するのか疑問に思えることもしばしばです。フリーランスの翻訳者にとって顧客からの指示に従うのは非常に大切であるのは間違いありませんが、そうすることで文法上問題がある翻訳文を作成し得ることは、ターゲット言語のネイティブではない翻訳者にとって意識するべき問題ではないでしょうか。

 翻訳例の何が問題なのか、その問題の背景は何なのか、どう修正すれば問題が解決されるのか、発表者が特許翻訳の実務および英文ライティング双方の観点から説明すると、それに対して絶えず意見が飛び交います。特許翻訳に従事していない翻訳者も多く参加していたことから、特許翻訳上の制約にとらわれない活発な討論が交わされ、密度の濃い時間が瞬く間に過ぎていきました。


 特許翻訳には特許法や審査規則上の要件があり、加えて出願人の意向も様々であるため万人が完全に納得する翻訳スタイルを定めるのが難しいことも事実です。しかし、こうして多様な意見が交わされることで潜在的な問題を共有し、翻訳の品質向上の一助を見出せたことは、参加者にとって非常に有意義だったのではないでしょうか。今後のセッションでも、特許翻訳は盛んな議論を呼ぶ題材になりそうです。

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